わたしの裾から袖までの距離はそのままあなたとわたしの夕まぐれにひたした薄手のひとりごとにかすんでこっそりわらう静けさが鍵穴にぴったりはまらないようにとっておきの涙は計量カップで正しくはかって使いましょう。おとなになったのにTシャツをうまくたためないわたしのあおい方のマグカップの行き止まりに触れるあかい名残はあわいボトルの口をつたってすぐに消えるから寄せても返さない日替わりのしあわせをさがして休日の朝早く駅へ向かう道にひびくキャリーケースのごろごろが耳をすましています。
そういえばあなたよりもずっとわたしらしいベッドの水面の下にむかし書いたはずの絵本がしまってあったはずなのですがひとりで新幹線や飛行機に乗るようになってわすれていった自分をわすれていました。じっとりとからみつく夜のとばりに手放したはずのスマホがふるえてテープで隠した傷口のありかを小鳥に教えようとしています。だから明日の朝にはレトルトカレーにフライドオニオンをぱらぱらと素通しの扉の奥まで時間をかけてお客さんを待つことにして、でもやっぱり夏野菜のスープくらいはほしいなとか思ったりするのです。
選ばれなかった骨董品のようにはみ出したハンカチはいつも白ばかりでちょっとだけ不安で自信がなくてすすけた目盛りをなぞる指はまるでわたしがそこにいないかのようにふるまうから歩くすがたを下からかたどったレタリングがよく目立ちます。さかさまの日傘を泳いでわたる道はひときわまぶしくてひからびた時間がわからなくなったらいろんなものを捨てたいひとたちの笑顔のかけらが無料で袋いっぱいにもらえると評判です。いずれまあるいボタンがぐるぐるまわって充電が切れたらわかってくれるのでしょうけど。
