成長

元気いっぱいに木から旅立ってアスファルトをころころと走り出した花びらは鳥や車におどろいてやっぱりおうちに帰りたいと道ばたで泣いていました。放課後に夕影のグラデーションを見ることができなかった子どもはそれからずっとからまったままおとなになって雲の中に消えてしまいたいとか消失点の先にとけてしまいたいとかありきたりのことばかり、掃除機をかけるときに閉めた本棚のとびらを開くと広がる1と2のつらなりはさらさらのポットの代わりがないことを思い出させるのです。

しかたなく来ていると思われないようにせいいっぱい声を張った病院の受付でじりじりと這いまわる雑音はわたしの心音よりもずっと健全に聞こえて、ふくらんだ風船がこわいままおとなになってもひとにものを贈るときに生まれるこころの動きはきっとたいせつにしたいと今日もシンクをみがくのです。たぶんあと5秒だけ待ってくれれば感動するけど自分に縁がないことが多くなりすぎてため息もつかなくなったから靴のかかとがくすんでいるのも見過ごしてしまいそうでした。

それでも今日くらいはまわる傘の玉をこぼさずに、指をはなしても片づけができないならせめてものを増やさないとか上の階の足音の強さに迷いこまないとかそんなことは忘れましょう。長い雨が上がっておとなになったのにうずいたままの胸の奥がふっと楽になったら材料を入れてピッと押してしまえばほかほかにあたたかい料理ができたことになるのです。腕をまくってつめたい玄関の床に慣れるくらい座ってわらっちゃうくらい靴をぴかぴかにしたからきっと明日は歩いているときにつま先を照らしてみたくなります。