追憶

あたたかい机に置いた指輪はひとりでに夜に差しかかる水族館の境界をひとりぼっちで満たして岩と岩の間接照明の近くを泳ぐ歌を摘んだらいつの間にか波音の外れの椅子にくるくるとまるい影をゆらしていました。群青に浮かぶいのちは支える点が増えれば増えるほど不安定になってあわい珊瑚の上で強くかがやいて屈折したガラスのお日さまをさえぎる縦と横に結んだ鉄橋はいつかくじらが底から離れて扉を開けるときのものでしたがもうずいぶんとさびてしまいました。

そうして息を吐いて教室の扉を開けたらぽつんと落ちてきた聞いたことがないことばが友だちもさみしさもぜんぶきれいに消し去って廊下のとおくにかざした段差のある入口とスロープの出口のちょうどまんなかに立ち止まったらその後ろに屋上への階段があったそうです。カーテンを抜けてみんなの予想より空っぽい色の折り紙で作った紙飛行機はひとつも飛ぶことはなく思い出のアルバムのすみっこでケーキの鋭角のようにその瞬間を待っています。いつもの教科書は明日をめくりつづけていなくなりました。

今はキッチンが明るくなりましたからまな板も安心して壁にもたれて傷をいやすことができますが灰色に凪いだビルにまどろむ老いた三日月が溶けるときにはベランダで心臓を止めて新品のランプシェードを収める日までねこの鳴き声だけで過ごさなければいけません。偽薬でもいいからとつるつるのうるおいを飲んだ日々はコマ送りのように乾いていって辛すぎたスパイスカレーの火を止めたらすりおろした昨日のともしびをほんのちょっと入れてこの小旅行もぱちんとおしまいです。