夜を青くとるひとはそれを残すために心をいちまいだけ空に渡して、すこしずつ厚くなっていくその中に見てはいけない四角いものを見たって同じかたちに切り取ろうとするからいつも失敗します。青はほんとうは下の方にあるのに上ばかり見ているからそうなるのに、ひとはみんな上に行きたいから天国も上につくって思いだけ上の方へ、ひとつふたつの星に願いをかけて心から祈ったことに満足しています。からだは最後の後にも下にあるままなのに、ひとは生まれたところには戻りたくないのです。そこはただ青いから。
下に対称に映るめがねを外すときは割れる天窓に気をつけて青を隠して両手でゆっくりと、滝にかかる虹にかすんだ目を薄く伏せたら植え込みに咲いてる花の名前を知らなかったことを責められて、だってそれは青じゃなかったはずなのにだれもわたしのいうことを聞いてくれません。捨てようと思ったものが捨てられなかった昔をなつかしく思いながらいろんな自分を捨てていって最後のからだは自分ではないほかのひとだから、それはどうか上の方にふっと一息で吹いて捨ててもらえば助かります。もう青にはいらないのですから。
雲の上でも下でもどちらでもいいからぱりぱりとこすれていく本になることはもうないんだとわかってほしくて、昼間の空に浮かぶ月が幽霊のように青く透けてついてくることを思い出しましたか。今が夜なら明日の朝に気づいてください。ずっと上から見られているから谷底に逃げたって深い霧は許してくれないし、夜明けの浅瀬を流れる水を切り取ったら心臓がすぐに止まる花がぽとりと落ちて塩の線からのぞく太陽がどれだけ理由があってもだれもいなくなった部屋がほしいと望んでいます。はじまりから青は後ろなのです。