フレグランス

あいまいに散乱するまつげはどこかに行きたくてもまばたきにゆらいでばかり、半拍分もすすめない輪郭は肌すれすれをかすめて1日後にはがれて洗濯物になって今日のかおりを書き換えられて、痛いほどそばにまるまって半分になってもたたまれないようにくもりの日の指輪にすりかわっていくぬるい日差しにあそんでゆっくりと目をつむりました。斜にかかるたいせつにしまわれたかえらない昼下がりの水たまりとシャッターの区別がつかなくなったものはやがてかなたに送られておなじことにされます。

ただしく描かれたベッドは夢が夢にならない空間にやさしくとぎれた寝息をただまとまらないままそういうことのひとつにしてくれます。最近のレコードは広すぎる横断歩道の標識とゆるやかな道なりのしろい破線にタッチしてはねる方へ、その矢印の向きはだれがきめたのかだれもしらないままそこにあるからそこにあることがだれにもしられたくないひみつの方向になって、そうして画面の右のはしっこに切れていく爪が差したしおりがちがうところでいくつも振りかえっては手を振っています。

雨の車窓からぼんやりとにじむ傘は帰り道だけうれしそうに、あとどのくらいかなんてしらないさようならの唇のかたちはバックミラーにゆれるおまもりがだれもいないからしゃべりたくなるのとおなじみたいで名前をつけてもらえなかったちいさな公園のベンチのまんなかの手すりの診察を受けたときの気温にもどってきた靴音がこつんと立ち止まる夜です。ゆっくり10を数えたシナモンがぱっちりとめざめたまぶたと雲のうつりかわりをなぞってたしかめたら夜が明けます。