もうすぐに

風に吹かれた桜の花びらがカップに淹れた紅茶にひらりと落ちて浮かぶ確率と、ドアのカギを閉めたか心配になって戻って確かめたらほんとうに閉まってなかった確率は同じくらいだそうです。晴れの日のベランダになにも干していないのがもったいないからお風呂に入って洗濯機を回すとなにか起きるかもしれないと思って、もし魔法が使えるようになったらきっとなにもしないか、この世界のすべてのひとを殺してベランダに干してさっぱりしてベッドに入って眠りにつきます。きっと最初のひとりは殺していいってゆるしてくれる薬がじわじわと脳ににじんでいく。

氷砂糖をポットに入れていつもテーブルのまんなかに置いておくように教わりました。ポットが白いのは口に入れるときの罪悪感をなくすためです。食器やキッチン用品で白いものはだいたいそうで、そのお皿に載せるものやその道具ですることが罪深いからそういう色にしたって占い師の人が言ってました。ウェディングドレスもきっとそうです。水の音に満たされた曲に祝福されたふたりは夢見ごこちで、その日の日記はみじかいけどあたたかいことばがひとことだけ書かれています。それがほんとうに夢だったことがわかったときに口に放り込む氷砂糖が必要になるそうです。

よく迷子になるけどぜんぜん気にしないからみんな指をさして笑うのでよかったなって、ぐっすりと眠るといつも刃物でなにかを切っている夢を見るのがすごく元気だなと思ってます。そういうじぶんがすきなんてことはないです。居心地のいいところを追い出されたときもいたくないところから逃げ出せたときもそのときは涙なんて出なくて、立ちすくんで夜空を見上げていただけのじぶんがすきなんてことはないです。ただこちこちと鳴るオルゴールに耳をかたむけていました。音の粒がまっしろに吹いてまわりのひとたちはいなくなりました。そのあとに涙を流したときにはだれも戻ってきませんでした。