時計の音をしまった部屋はやがて鍵盤の上を走って黄色いしっぽが遠いところからころころと波を追い抜いていきます。10%のすきばさみで同じ景色を繰り返して流すまでの待ち時間に汗がにじんで、鏡の前の特別な日の色をしたプラムが香るだれかの休日にこっそりとしみ込んでいくお昼寝の時間が夢の縁側でつまずいて膝を抱えています。いつの間にかお皿の上にはなにもなくなったけど貼りついた耳もとのくすぶりを巻き戻さないように、煙になって、切った髪をじっと見つめすぎるのはわるいことなのです。
今は歩けないまま奥の方でぽつんと待っている石鹸のように静かに手を合わせた葉っぱの袋に閉じ込めた雨音が急に近づいて泡立ちはじめました。縁側を見たことがないくるみがどうしたらいいのかわからなくて転がるのをためらっているうちにビニール越しの空がくっついて線の下に垂れて落ちたらきれいに晴れるはずです。つけっぱなしの冷房がこわがる前にお風呂をわかしてその間に抜いた浮彫りの花びらを忘れないように息づかいもぜんぶまとめて、鉛筆を持った手がノートをこするとそれがしおりになります。
ろうそくの音をお湯で囲うとじっとして動かない時間がじりじりと減っていきます。明かりをつけないのをぜいたくに思うのはひとりでいることに大切なさみしさを見てしまったから、捨てられなかった古いものの温度が上がっていくのを足を伸ばしてひとりでそこに、できるだけ息をしないように、このまま消えなかったら反対側に、ちょっと動いただけでこんなに揺れるからあいさつするのがうれしくなります。なくなった時間をあたためただけであげられるものができるような気がするのです。すこしだけ。