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ないしょで会うたびにこれからすべてのわたしを忘れてしまうような香りがするなんておこられてしまいそうですけど幸せになるためには不幸せにならないといけないそうですからちょうどいいのかもしれません。もうすぐに髪を切るから関係ありませんけどふるふるとちぎれる坂の向こうに区切りをつけて立つ風に背中を押されたらきっと雨に降られてしまうのですしもうその噴水のそばのベンチに腰かけることもないでしょう。レコードが回るノイズがなつかしいかわからないのではなく知らないのですけど。

きらきらした朝に目覚めたらきっとわたしのからだにありがとうを言いますから涙もろい季節にお水をあげてください。割れて粉々になった鏡にもすがたは移っていってしまうのですからだれも答えてくれないとか大間違いですよ。ベッドに入ったときにいちばんいろんなことばを思いつくからってまっしろなメモ帳を目の前に広げるのはもうやめて、たくさんの流れてくる景色を映画のスクリーンの前にいるときのようにぼんやりと、でもその中の主人公にならないで、ただそっと自分を手放すだけでいいのです。

空に星はあんなにたくさんあるけれどたがいの距離はとても遠いらしくて、まっくらにふくらみ続ける宇宙に点々としみついた例外のさらにたったひとつの場所にしかいないわたしたちの終わりは記録されることはないのでしょう。人形になってしゃべれなくなったらかわいくてもかわいくなくても今できることをやれるならそれはほんとうになるのですからいちばん片づかないひととの手のつなぎ方を冷たい床に座り込んで考えなくちゃいけないのです。こうして指をそっと伸ばすにもだれかの許可がいるのですから。