| 『第65期名人戦七番勝負(毎日新聞社主催、大和証券グループ協賛)の第6局は15日午後10時39分、140手で挑戦者の郷田真隆九段(36)が森内俊之名人(36)を破り、対戦成績を3勝3敗とした・・・ 森内が「十八世名人」まで、あと一歩かと思われた局面から、初の名人位を目指す郷田が執念を見せて大逆転勝ち。カド番をしのぎ、決着を最終局に持ち込んだ』 何もかもが全てひっくり返る瞬間、とはまさにこのことだろう。50時間以上連続で働いて身体中が震えてしかたないのでやむなく朝4時半ころに帰宅したはいいのだが、この棋譜を見て余りのことにけたけた笑いながら4回嘔吐し、壁に向かってシャドーボクシングをして両手から出血し、我に返って風呂に入って「もってけ! セーラーふく」を熱唱しながら今に至り、全裸でこの記事を書いている。記事中『森内が「十八世名人」まで、あと一歩かと思われた局面』とあるが、あと一歩? ははは、あと10分の1歩と言っても過言ではない。もう30回以上棋譜を見た。130手目までで森内の勝利は99.9%間違いなかった。名人位を5期取った者だけがその名誉ある地位を名乗ることができる永世名人、実力制になってからはや70年ほど、木村、大山、中原、谷川のたった4人、いずれも時代を作り上げた真に傑出した棋士が居並ぶ中、あの羽生の名前が刻まれる前に、森内が名を連ねるのも時間の問題だった。森内の131手目、▲4七玉で一瞬にして全てが終わった。▲4八玉なら磐石の勝ちだった。信じられない、ありえない大悪手。
開始日時:2007/06/14 09:00 終了日時:2007/06/15 22:39 先手:森内俊之名人 後手:郷田真隆九段
▲7六歩 △8四歩 ▲6八銀 △3四歩 ▲6六歩 △6二銀 ▲5六歩 △5四歩 ▲4八銀 △4二銀 ▲5八金右 △3二金 ▲7八金 △4一玉 ▲6九玉 △5二金 ▲7七銀 △3三銀 ▲7九角 △3一角 ▲3六歩 △4四歩 ▲6七金右 △7四歩 ▲6八角 △4三金右 ▲7九玉 △9四歩 ▲8八玉 △9五歩 ▲3七銀 △7三銀 ▲3五歩 △同 歩 ▲同 角 △7五歩 ▲同 歩 △同 角 ▲2六歩 △3一玉 ▲2五歩 △3四歩 ▲4六角 △6四角 ▲同 角 △同 歩 ▲4六銀 △2二玉 ▲5五歩 △同 歩 ▲6三角 △6五歩 ▲7二歩 △5三金 ▲4一角成 △7四角 ▲5一馬 △6六歩 ▲同 銀 △4七角成 ▲5四歩 △7七歩 ▲同金寄 △4三金寄 ▲5五銀左 △7六歩 ▲同 金 △6四銀 ▲2四歩 △同 銀 ▲6四銀 △4六馬 ▲5三歩成 △3三金寄 ▲6八飛 △同 馬 ▲同 金 △6七歩 ▲7八金 △7五歩 ▲7七金引 △5九飛 ▲6七金寄 △6六歩 ▲同 金 △8五歩 ▲6八銀 △2九飛成 ▲7五銀 △8六桂 ▲4二と △7八桂成 ▲同 玉 △1九龍 ▲4五桂 △同 歩 ▲3二と △同 金 ▲5五角 △3三銀 ▲1九角 △7三香 ▲2四歩 △8六歩 ▲2三歩成 △同 玉 ▲2四歩 △同 銀 ▲2五歩 △3三銀 ▲7三角成 △8七歩成 ▲6七玉 △7三桂 ▲2四香 △1四玉 ▲1六飛 △2五玉 ▲3六金 △2四玉 ▲2六飛 △2五歩 ▲同 飛 △1四玉 ▲3三馬 △4九角 ▲5八歩 △7八銀 ▲5七玉 △5三香 ▲4七玉 △5八角成 ▲3八玉 △4六桂 ▲2八玉 △2七歩 ▲同 玉 △3六馬 ▲同 玉 △3五金
まで140手で後手の勝ち
詰めろが暗転、形作りの連続王手に逃げ間違えて飛車が抜かれるところであえなく投了。これを野球に例えるなら、甲子園決勝9回裏4-0でツーアウトランナーなしツーストライク、ここで監督が控えの3年生を思い出代打に立たせてから5連発ホームランでサヨナラ負けレベルである。また、サッカーに例えるなら、W杯決勝2-0ロスタイム残り3分相手は2人退場で3点入れられるレベルである。さらに、テニスに例えるなら、男子ウィンブルドン決勝2-2で迎えた最終セット5-0、40-0から7連続ゲームを取られるレベルである。そして、カバディに例えるなら、後半残り時間5分で5点リードのアンティ残り5人に対するレイダーは1人、宣告によるローナをせずにレイドし、レイダーがキャッチングされた状況から6点連取され試合終了のレベルである。なお、カバディについてはついさっきルールなどをググったので突っ込みは止めてほしいところである。
永世名人のプレッシャー? 秒読み将棋のあや? それともラピュタ見たさに勝負を焦った? 理由なんてどうでもよくなるような、余りにも鮮やかなポカだ。実力としての棋力では森内が郷田に勝るというのが定評である。次の最終局は、気持ちを切り替えた森内が普通に勝つかもしれない。それはもちろん素晴らしいことである。けれど、永世名人を名乗るにしては、この負けは、例えようもなく痛烈過ぎる。
思うところは様々に、ただ、こういう局面が人の生の中に存在するということは、どんな時でも記憶に刻んでおくべきなのかもしれない。私は森内の棋風は好きではなく、むしろ「羽生の頭脳」を大切に保存する羽生オタなのであるが、敢えて森内に言いたい。ありきたりではあるが、そう、まだ、勝負は終わってないぞ。
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