| | 私と同じ年代であれば、デパートと聞くと子供のころを思い出す方もいるのではないでしょうか。日曜日の午前中、早く外に出たいのにお母さんの化粧にかける時間がいつもより長くて待ちくたびれて、電車を乗り継いで、もしくはお父さんが少し得意げにカローラやブルーバードを運転して、ようやっと到着したデパート、子供の自分は何が売っているかなんてことには全く興味がなく、服飾化粧贈答と忙しく回るお母さんに置いていかれて同じく手持ち無沙汰なお父さんと一緒に屋上に行き、何か中途半端な造形のキャラクターを模した乗り物アトラクションに乗ってきゃあきゃあと騒ぐ。お昼ごはんは最上階の大衆食堂で「お子様ランチ」「ハンバーグステーキ」「エビフライ」のどれか。子供時代の贅沢といえば「マクドナルド」と双璧をなしていた「デパート」、そんな時代はもうセピア色のさらに向こうに消え去って、今やデパートはどこも青息吐息です。
『大手デパート各社の先月の売り上げは、前の年の同じ月に比べて「伊勢丹」と「松坂屋」がそれぞれマイナス１１％、「三越」が１０．８％の減少となり、夏物 の商戦が振るわなかった前の月に続いて１０％を超える落ち込みとなりました。また「高島屋」はマイナス９．３％、「大丸」は８．２％の減少となり、各社とも前の年を大幅に下回りました。これは、天候不順の影響で夏物衣料の販売が伸び悩んだことに加えて、消費者の節約志向の高まりで宝石やブランド品などの高額品の売れ行きが引き続き振るわなかったためです』
天候不順でデパートが云々、とここ10年間ずっと聞いているような気がします。寡聞にして東京で10年もの間ずっと天候不順が続いていたという記憶はないのですが。まあつまりは、デパート不振の原因は天候だけではないのでは、ということですよね。
私もついぞデパートには足を運ばなくなりました。正確には、スーツだけは中途半端にデパートの仕立てを使うこともあるのですが、それ以外の用事でデパートを回ることがなくなりました。以前はそれなりに服飾をざっと眺めたり、本屋やCDショップに行ったり、酒を眺めたり、レストラン街でついでに食事をしたりしていたものですが、最近というかここ10年弱の間にそんな習慣は全くなくなりました。服なら私の巨体にあったものが他の専門店でたくさん売っているし、本とCDは近くにもっと品揃えのいい専門店があるし、というか秋葉原行けばいいし、酒は専門商店の方が圧倒的に品揃えと管理がいいし、レストラン街はもっと気持ちのいいサービスや料理を出してくれる個人経営の店をたくさん知っているからです。紳士系小物・アクセサリーにも興味がないわけではないのですが、結局は嗜好品、お金がある時にそれを思い切り注ぎ込むような類のものですから、勝負モノであればブランド旗艦店で買った方が精神的に満足するし、普段使いならもっとこざっぱりとしていながら個性的なデザインのものが他で安く手に入るのです。そして何より、直接見ないと買えないもの、例えばサイズ計測が必要な仕立てや少し気合を入れたプレゼント以外であれば、たいていの用はAmazon、Yahooと楽天で済んでしまうからです。
デパートはこの10年の間、現代社会の急速な選択肢の増加についていくことができず、「何でもあるけど買いたいものがない」「他にもっといいところがある」「ネットでいいじゃん」という状況に負け、完全に「差別化」を失敗してきています。それは天候不順でも深刻な不況のせいでもなく、自ら招いた戦略ミスであり、顧客を自ら手放しているのです。
それは「何でもある百貨店」という業態からしてやむを得ないかもしれません。デパートはそれほどハンドルを切りまくれる商売ではなく、ある面から見れば外部ブランドに場所貸しをしているだけの不動産業者然としている様相すらあるわけで、出店したショップから固定賃料＋出来高を受け取ることを目的に増床を繰り返してきたその巨体は、それ自体を維持する必要があるため、今さら一点集中でスペシャライズするのは困難な状態かもしれません。それでも、今やネットを使わない団塊世代の老人と中国等アジアから来た富裕層のまとめ買いで何とか食いつないでいるという余りに先が見えないその状況は、決して「不景気」だけで片付けられるような話ではないと思うのです。
どこのデパートに行っても1階は同じような「よく見る高級ブランド」が看板を掲げていて、奥は化粧品、2階から上はこれも似たり寄ったりの服飾ばかり。やっぱりあれですか、いわゆる外商の大口顧客以外の有象無象どもなぞ適当に相手をしていればいいという感じなんでしょうかね？ そして一方、昔日の泰然とした面影はどこへやら、いつ行っても無神経に吊るされる「SALE」の赤文字。安売りでデパートが他の量販店に敵うはずがないことなど誰もが知っているというのに。あまつさえ最上階のレストランまで公式に従ったかのごとくに各デパートで有意な差を見つけられないのでは、何ともどうにもならなさそうです。
唯一、もう5年以上も前からですが地下の食料品売場がワイドショーで特集され、世の女性たちは駆けつけているようですね。あれはどこまでデパート全体の客回しに影響があるんでしょうかね。食料品を買った客がついでに上に行く、という行動を「噴水効果」というようですが、伝統的にデパート経営で言われていた「シャワー効果」つまり服を買ったりレストランで食事した客がついでに下の階に寄っていく、ならわからないでもないですが、食品を買った客は果たしてそれを持って上に行くんですかね。保冷剤が入ったスイーツや調理済みでにおいもするだろう「中食」を持って？ そこらへんは定かではありませんが…
最近成功したのは新宿伊勢丹のメンズ館でしたかね。とにかく男が入りにくいデパートというものを多少なりとも改善してくれていました。ただ、去年スーツを仕立てたついでにコートを新調しようと思ってふらっと伊勢丹メンズ館を回ったのですが、残念ながらこれと目を引くものが置いておらず、結局そのまま買い時を逃してしまいました。今年こそは、と思っているのですが、どうにも今年はまだ1度もデパートに足が向いておらず、このままではネットで注文してしまいそうな予感がひしひしと。全く難しいものですね。
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